精神看護学のススメ

看護系大学教員(精神看護学)の備忘録.

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パーソナリティ障害の症状・治療・看護

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みなさんどうも, なるとんです.

今回は「パーソナリティ障害」について解説していきます.

パーソナリティ障害の概要と分類

パーソナリティ障害とは, 図1にも示すように, 認知や感情, 対人関係や衝動性に持続的な著しい偏りがあり, これによって社会生活に影響が出てしまっている状態です. 

 

もう少しわかりやすく説明すると, 物事の考え方が偏ってしまったり, 自分の気持ちを抑えきれなかったり, そのために他人や大切な人に対しても反社会的な行動や, 逸脱行為(所属する集団や社会にとって好ましくない行為)をしてしまいます. 

 

結果として, 周囲の人は本人のもとを去って行ってしまうのですが, 本人のみでは認知や感情の偏りや衝動性を抑えることがとても難しく, どうしていいかわからず, 見捨てられ不安が生じることによって, また症状が悪化してしまうなど, 本当につらい状態にあります. 

 

また, パーソナリティ障害は, 図1に示すように主に4つの分類に区別されています. 図を見てもらえばわかると思うのですが, その症状の現れ方は本当に様々です. 

 

ほかの疾患の症状と似た症状も出現するため, 正確にパーソナリティ障害と診断することはとても難しく, 初回の診察のみでこの診断がつくことはほとんどないといってもいいそうです. 

 

仮にパーソナリティ障害という診断がついたとしても, 後々ほかの疾患だったことがわかり, 診断名が変更されることもあります. 

 

後ほど解説しますが, パーソナリティ障害と診断するまでには, 様々な検査が行われます. 

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図1. パーソナリティ障害の分類

パーソナリティ障害の病因と症状

パーソナリティ障害の病因

本来であれば, 図1に示した分類に沿ってパーソナリティ障害について解説していきたいところですが, そうするととんでもない文字数となってしまうため, 今回はB群に分類されており, みなさんもよく耳にする境界性パーソナリティ障害について解説していきます. 

 

境界性パーソナリティ障害の主な病因は, 図2に示しているように, 遺伝など先天的な要因によるものと, 家庭環境などに影響を受けた後天的なものとがあります. 

 

遺伝的な要因については, 先行研究の結果などから, 生活環境へのストレスに対し病的反応を生じる遺伝的傾向が認められる場合があることから, 境界性パーソナリティ障害には明らかに遺伝的要素があるとみられています. また, 境界性パーソナリティ障害患者の第1度親族は, 一般集団よりこの障害を有する可能性が5倍高いともいわれてるようです. 

 

家庭環境などの後天的要因については, 幼児期のストレスが境界性パーソナリティ障害の発症に寄与している可能性があると言われており, 体的虐待および性的虐待, ネグレクト, 養育者との分離, および片親の喪失という小児期の病歴が境界性パーソナリティ障害患者にはよくみられるそうです. 

 

上記について, MSDマニュアルより引用

境界性パーソナリティ障害(BPD) - 08. 精神障害 - MSDマニュアル プロフェッショナル版

 

パーソナリティ障害の症状

主な症状は, 図2に示した通りです. 

症状を見ていると, 他の精神疾患との鑑別が難しいことがなんとなくわかりますでしょうか?

 

例えば, ①の対人関係や自己像の不安定さ(低い自己評価)などは, 成人期のADHDにもみられる症状であり, ②の空虚感や孤独感はうつ病, ④については双極性障害や依存症との鑑別が必要になってきます. 

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図2. パーソナリティ障害の病因と症状

 

また, ③のように見捨てられることに対する激しい不安など, 孤独感や寂しさから自殺企図につながるような疾患でもあります. 

 

ご本人の背景となる情報を集め, 数回の診察の後にようやく診断されることが多いです. どの精神疾患にも言えることですが, 症状が出始めてから治療を行うまでの期間が短ければ短いほど予後は良くなると言われています.

 

慎重な鑑別は必要ですが, 可能な限り早くに適切な治療が受けられるように, 看護師も本人や家族との会話の中から必要な情報を集めていく必要がありますね.

 

パーソナリティ障害の検査と治療

パーソナリティ障害の検査

先ほど述べた通り, 初回の診察で確定診断がつくことはほとんどありません. パーソナリティ障害という診断は, 場合によっては患者自身に大きなスティグマを与えることとなり, 医療から疎外される一因にもなりかねません.

 

実際, パーソナリティ障害と診断され, 十数年治療を続けたにも関わらず改善しないため, 難治性とされていた患者さんに, 改めて問診をするとてんかんを疑うエピソードが見つかり, 脳波検査をしたところてんかんであることが分かり, 抗てんかん薬を調整することで改善したという症例もあるそうです.

 

このようなこともあるため, 生育生活歴, 家族歴, 身体因の可能性など詳細に情報を集め, 数回の診察場面での患者の言動を詳細に把握したり, 心理検査や脳波検査, 画像検査, 血液検査などを行った上で慎重に診断しています. 

 

ちなみに, たとえ紹介元や前医でパーソナリティ障害の診断がついていたとしても, 改めて丁寧に鑑別し直すことも重要とされています(治療の拒否や自傷行為が見られただだけでパーソナリティ障害と診断されることも往々にしてあります).

 

他の疾患との鑑別を丁寧に行うことで, その人にあった適切な治療が行えるのですね. 

 

パーソナリティ障害の治療

パーソナリティ障害の治療には, 図3に示したように, 精神療法と弁証的行動療法, 薬物療法が主に行われています. 

 

特に, 弁証的行動療法が, パーソナリティ障害には有効とされています.

 

弁証的行動療法とは, 患者さん本人が, 自分では抑えきれない衝動性などの問題について, 問題の中にある適応への努力(本人の持つ強み)を見出すこと, そして適応的な行動を増やし, 不適応な行動を減らすことによって問題行動の解決を図る認知行動療法です. 

 

様々な技法を駆使して行う認知行動療法の一つですが, パーソナリティ障害においては, 自傷行為を減らしたという数少ないエビデンスのある治療法にもなっています. 

 

字面だけ見ていくととても難しく感じますが, 患者さん本人の強みを, 支援者が本人と一緒になって見つけ, その強みを強化していくというイメージで間違いないのかなと思います. この辺りは, 看護の力が活躍できそうな気配を感じますね. 

 

薬物療法は, パーソナリティ障害自体に効果があるというよりも, 併存している抑うつ症状や不安などの症状に対して, 対症療法的に用います.

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図3. パーソナリティ障害の検査と治療

パーソナリティ障害の看護

最後に看護としてどのように関わっていくのかを考えてみます.

主な関わりについて, 図4にまとめてみました.

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図4. パーソナリティ障害の看護

①チームで対応を統一する

病棟では複数のスタッフがチームで患者さんに関わります. スタッフによって対応が異なると患者さんは混乱してしまいます. そのため, チーム内で患者さんへの関わりは統一するとともに, 気になることがあればタイムリーに情報共有することが大切です. 

 

そうすることによって, 「あの看護師さんはいいって言ったのに, どうしてあなたはダメっていうの!?もう信用できない!」という状況を避けることができます. 

 

また, スタッフとしても対応を統一していないがために, 本人に振り回されてしまい, 適切な対応ができなくなります(本人は症状のためにこれにつながる衝動性を自分で抑えることが難しいですし, そもそも自制できるなら治療はいりませんよね).

 

対応は必ず統一しておきましょう.

 

②安心できる場を提供する

患者さん本人は, これまでの経験や人間関係から, 見捨てられることへの不安などが強くなりやすい状態にあります. 

 

気にかけていることを伝えていきましょう. 

できるだけこまめに, 具体的に伝えましょう. 

 

信頼関係をすぐに構築することはどんな人が相手でも難しいです. 

時間がかかっても良いので, 毎日一言だけでも声をかけ, 関係を作り, 本人にとって安心できる場を作っていきましょう. 

 

③感情を言語化, 衝動性を制御できるように支援する

衝動性は何度も出てきます. そして, 本人もそれをなんとかしたいと思っています. 

でも, 本人のみではその衝動性をなんとかすることが難しい.

衝動性が強い時には気分安定薬を上手に活用して気持ちを落ち着けるよう看護師から声をかけていくことも大切です. 

 

④自身の行動への対処や振り返りを支援

行動への対処方法も含め, どうすればよかったのか, どうすれば衝動性を抑えられそうか, 行動に移す前に言葉にすることなど, 根気よく本人と話し合いながら考えていきます. 

 

看護師の考えを押し付けるのではなく, 本人と一緒に悩み考えるというプロセスが大切です. 本人が一生懸命考えること, そして看護師がそれを支援していくことで, 問題行動が強みに変わり, 衝動性をコントロールしていく力になります. 

 

終わりに

今回は, パーソナリティ障害の看護について解説してきました. 

パーソナリティ障害については, 支援する側が正しい知識を持っておくということがとても大切になります. 

 

なぜなら, 誤解されやすい障害であり, 時として支援する側が偏見を持ってしまう場合があるからです. 

 

正しい知識を持って, 本人を支えていくことが, 回復への近道となります. 

 

ただ, そうは言っても時として, 本人の言動に陰性感情を持ってしまうこともあるでしょう. その感情は決して悪ではありません. 支援者も人間なのですから!

 

その気持ちは溜め込まず, チームの中で吐き出すことで支援者自身のメンタルケアも行いながら, 本人を支援していけたら良いですね. 

 

今回も最後までお付き合いくださり, ありがとうございました. 

また次回の記事でお会いしましょう!

 

参考文献

1. 新体系看護学全書 精神看護学2 精神障害を持つ人の看護. メヂカルフレンド社

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2. 全人的視点にもとづく精神看護過程. 医歯薬出版株式会社

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3. 看護実践のための根拠が分かる精神看護技術. メヂカルフレンド社

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