
今回は、僕の専門領域である精神看護について説明したいと思います。
日頃、学生さんからよく聞かれる質問の一つに、「精神看護と精神科看護はどう違うのですか?」「心理学とは何が違うのですか?」というものがあります。
一見すると似た言葉ですが、それぞれが対象としている範囲や役割には違いがあります。今回はその点も含めて、できるだけ分かりやすくお話ししていきます。
精神看護とは?
「精神看護」と聞くと、多くの人は統合失調症やうつ病など、精神疾患をもつ人への看護を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん、それも間違いではありません。ただし、精神疾患をもつ人への専門的な看護は、正確には精神科看護と呼ばれます。
精神看護は、それよりももう少し広い概念です。精神疾患の有無に関わらず、人の「こころの健康」や「精神保健」に関わる問題全般を対象とした看護を指します。
現代社会は「ストレス社会」と言われるように、日常生活の中で不安や悩みを抱えやすい環境にあります。精神疾患と診断されるほどではなくても、誰もが以下のような悩みを経験する可能性があります。
- 職場や学校での人間関係の悩み
- 家族関係や介護、子育ての悩み
- 経済的な不安
- 自分や家族の健康問題に関する不安
これらは特別な人だけが抱えるものではなく、人生のどこかで誰もが直面しうる問題です。もし、このような悩みを抱えながらも、誰にも相談できず、解決の糸口も見つからないまま放置してしまうと、心身のバランスを崩し、結果的にうつ病などの精神疾患を発症してしまうこともあります。
そうなる前に、不安や悩みを抱える人が心穏やかに、安心して生活できるよう支援すること。それが精神看護の大きな役割です。
たとえば、以下のような状況にある人も、精神看護の大切な対象です。
- 職場や学校で周囲になじめず、毎日がつらい
- 介護や子育ての負担を一人で抱え込んでいる
- 金銭的な余裕がなく、将来に不安を感じている
- 重い病気を抱え、これからの生活が心配
つまり精神看護とは、「誰もが自分らしく、いきいきと生きていくための支援」を行う領域だと言えるでしょう。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、それくらい幅広い領域なのです。
精神看護と精神科看護の違い
ここで、精神看護と精神科看護の違いについて整理しておきます。
精神看護は、日常生活の中で生じるこころの健康問題を広く対象とした看護です。
対象は、精神疾患の診断の有無に関わらず、不安や悩み、ストレスなどを抱えるすべての人です。一方、精神科看護は、主に統合失調症やうつ病、双極性障害などの精神疾患をもつ人を対象とした専門的な看護です。精神科病院や精神科病棟、精神科外来などで実践される看護がこれにあたります。
イメージとしては、精神看護という大きな枠の中に、精神科看護が含まれていると考えると分かりやすいでしょう。
英語表記を見ても、この違いは明確です。
- 精神看護:Mental Health Nursing
- 精神科看護:Psychiatric Nursing
精神看護学と心理学の違い
次に、精神看護学と心理学の違いについて考えてみましょう。
僕自身は心理学の専門家ではありませんので、ここでは主に臨床現場での役割の違いという視点からお話しします。
精神看護学のベースにあるのは、言うまでもなく看護学です。看護では、対象となる人を身体的・心理的・社会的側面から総合的に捉え(アセスメント)、その人に必要なケアを考えていきます。
全体像を把握することで、「今、その人がどんなことで困っているのか」「どのような支援が必要なのか」といったニーズを明らかにしていきます。
一方、心理学は、人の心の働きや行動のメカニズムを科学的に解明しようとする学問です。心理士は、面接や心理検査を通して、その人の内面をより深く理解し、行動や言動の意味を専門的に読み解いてくれます。
僕が精神科病棟で勤務していた頃、受け持ち患者さんについて心理士の先生に相談すると、「そこまで深く見ているのか」と驚かされることが何度もありました。
心理士から得られる情報は、看護師が行うアセスメントにとって非常に重要です。
精神看護学と心理学、それぞれの視点から得た情報を共有することで、その人をより立体的に理解でき、より適切な支援につなげることができます。
多職種連携の重要性
少し話が広がりますが、精神科医療は他科と比べても多職種連携が特に重要な領域です。精神科看護師や心理士だけでなく、医師、薬剤師、作業療法士(OT)、精神保健福祉士(PSW)など、多くの専門職が関わります。
それぞれの専門性を理解し、互いに尊重しながら連携することが、チーム医療において欠かせません。精神看護は、そうした連携の中で中心的な役割を果たす分野でもあります。
おわりに
今回は、精神看護の概要と、精神科看護・心理学との違いについて説明しました。自分の専門分野について、少しでも多くの人に知ってもらえたら嬉しく思います。
精神看護や精神科看護の定義について、分かりやすく説明している情報は意外と多くありません。精神科看護ついては、日本精神科看護協会が定義しています。
今回の記事が、精神看護に興味をもっている人や、精神科で働いてみたいと考えている人にとって、少しでも参考になれば幸いです。
