精神看護学のススメ

看護系大学教員(精神看護学)の備忘録.

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うつ病の症状・治療・看護

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みなさんどうも, なるとんです.

今回は, みなさんがよく知っているであろう精神疾患の一つ, 「うつ病」について解説していきます. 

 

うつ病は「100人に6人」は罹患すると言われています. 以前「誰にでも起こりうる」と解説した統合失調症は, 「100人に1人」でした.

 

統合失調症の解説はこちら↓

www.narut0n.com

 

ちなみによく聞かれるので先に言いますが, うつ病は早めに適切な医療を受けることが出来れば外来治療のみで改善する疾患でもあります. 

 

そんなうつ病ですが, 具体的にどのような症状が出現し, 治療や看護はどのように行われるのかについて順番に解説していきます!

 

今回の記事は, 以下のような人におすすめです.

  • 精神科で働き始めたばかりの看護師さん
  • 精神科や精神疾患に興味を持っている人
  • 実習に向けて勉強してるけど, 何がポイントなのかわからない看護学生さん
  • 身近な人がうつ病に罹患した(している疑いのある)方

少しでも参考になれば幸いです. 

それではさっそくはじめていきましょう!

 

うつ病の概要

うつ病」という診断名自体は, みなさんも耳にしたことがあると思います. ニュースでもよく聞くのではないでしょうか?

 

ちなみにWHO(世界保健機関)は, うつ病について「ありふれた精神障害」であると言っています. つまり, 誰にでも起こり得る疾患ということでしょうね. 

 

どのような症状が出現するかというと...

などが主でしょうか. 

 

特に, 最も注意してほしい症状が「自殺念慮(じさつねんりょ)」です. 

 

これは、「消えてしまいたい」「死んでしまいたい」という気持ちのことで, 自殺する場所や方法まで考えている場合は特に危険な状態なので, すぐに医療機関を受診することを強く勧めます. 

 

うつ病の症状は, 厚労省でも紹介されています. 

一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。

うつ病|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省

 

この記載だけ見ると「え?もしかして自分もうつ病なんじゃないかな?」と思う人も出てくるかもしれないのですが, そう思ったときは...

  • 上記の症状が2週間以上続いていないか
  • 日常生活に支障が出ていないか

この点をチェックしてみてください. 

当てはまるようであれば, 受診することを強くお勧めします. 

 

※あくまで目安なので, きつい時は期間に関係なく必ず受診しましょう!

 

うつ病の病因・症状・治療

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図1. うつ病の病因・症状・治療

図1にうつ病の病因・症状・治療をまとめてみました.

 

うつ病の病因

病因について, 図では脳内モノアミン仮説と書いています. 気分障害については, 脳内のカテコールアミンやインドールアミンの異常が関与するとされるモノアミン仮説に基づいて, それらの神経系との関連を検討した報告が積みあがってきています. 

 

うつ病患者では...

 

以上のような報告があります. 

めちゃめちゃざっくり言うと...

気分を保つために, ある場所にある程度ないといけないものがない!?」と言った感じでしょうか.

 

詳細な病因については, まだまだ研究中ということですが, こういった報告からうつ病は脳の病気であるということも分かりますね. 

 

うつ病の治療

主な治療としては, 患者さんの状態に合わせて, 薬物療法と精神療法がおこなわれます. ここで, 「うつ病ってこころの病気なのに薬で良くなるの!?」という疑問にお答えしておきますが, 先ほどお伝えしたようにうつ病は脳の病気です. 

 

本来必要な脳内物質があるべきところにないために発症する疾患なので, お薬を使ってその物質をあるべき場所にあるという状態にしていきます. だから薬で改善していくのですね. 

 

ただし, 薬物療法では効果が現れるまでに数週間と言う時間がかかることや, 有害反応の観察, 抗不安薬の依存性などに注意が必要です. 

 

入院中であれば, 看護師や医師が薬の効果や有害反応を観察していきますが, 外来治療のみの場合は, 本人や家族が薬物療法の効果や有害反応を見ていかないといけないので, 少し大変かもしれません. 

 

「調子が良くなった!」とか, 「副作用がきつすぎる!」からといって, 自己判断や家族の判断だけで薬を中断すると, うつ病が治らないどころか, 悪化したり, 同じ効果を得るために薬の量や種類が増えたり, 飲む期間が長くなってしまうというような悪影響も出るので, 薬について疑問がある時は, 必ず医師や看護師に相談しましょう. 

 

うつ病への看護

では, うつ病に対して看護師は具体的にどのようなケアを提供しているのかを説明していきます. 

 

急性期の看護

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図2. うつ病の看護(急性期)

急性期の主な看護ケアの内容について図2に示しました. 

 

十分な休息の確保

うつ病に罹った人は, エネルギーをかなり消耗しています. ですので, まずは安全な場所で, 安心して休息してもらいましょう. 図にも示していますが, うつ病は怠け病ではありません. むしろ頑張りすぎた結果です. 

 

ちなみに「うつ病の人を励ましたり, 頑張れっていっちゃいけないって聞くけどどう声をかけたらいいの?」と聞かれることがありますが, この言葉を使ってはいけないというわけではなく, ニュアンスの問題だと思ってください. 

 

例えば, 同じ「頑張れ」という言葉を使ったとしても, 以下のような二通りの言い方では全然意味合いが変わってきませんか?

 

「つらいのはあなただけじゃないんだから, もっと頑張りましょう!」

「焦らなくていいですよ. ゆっくり, 少しずつ頑張っていきましょう.」

 

その人の今の気持ちに共感して安心してもらえるように声掛けをしていきましょう

 

薬物療法が継続できるように援助する

つぎに, 治療のところでも説明した薬物療法の支援ですね. 効果が出るまでにかなり時間がかかるために, 患者さんはいつまでも治らないんじゃないかと不安になったり, 焦ったりします. 

 

患者さんの不安や焦りを受け止め, 効果には時間がかかること, 焦らずに待つこと, 効果が出たからと言って勝手に薬をやめないことなどを, 本人や家族に繰り返し説明していきます. 

 

日常セルフケアの観察、援助

日常セルフケアへの援助とありますが, セルフケアが何か知らない人のために簡単に説明すると, みなさんが日ごろ自分で行っている「食事、洗面、入浴、排せつ、睡眠」などです.

 

うつ病の主な症状である「意欲低下」や「注意力の低下」のために, 本来できていた上記のようなセルフケアが行えなくなる時があります. 

 

・気分が落ち込んでいて食事がのどを通らない.

・疲れすぎて顔を洗ったり, お風呂に入る元気もない. 

とか, 経験したことありませんか?

 

うつ病では, これらのセルフケアが一部か全部行えなくなる場合があります. 

本人が回復するまで, 看護師が援助するということです. 

 

自殺を予防する

最後に最も重要な「自殺の予防」です. 

うつ病では, 「死にたい」という自殺念慮が症状として出現することがあります. 

死ぬ場所や方法, 時間などを具体的に考えている場合は危険です. 

 

入院中は, 看護師が定期的に患者さんのもとを訪れ, 所在確認や状態の把握をしています. 具体的には, 患者さんの言葉, 表情, ベッド周囲の様子などからいつもと違う様子がないかを観察し, いつもと違う様子があった場合には, 患者さんと話す時間を多めに設けたり, 主治医に報告して対応や治療を検討したりします. 

 

自殺念慮のある患者さんに関わるとき, 僕たち看護師は, 「いま死にたいと思っていますか?」と率直に聞くことが多いです. 

 

その時に, もしも「死にたい」という言葉が聞かれた場合は, どうして死にたいと思ったのか, 具体的な方法まで考えているのかなど, その気持ちを掘り下げて確認します. 

 

「死にたいか聞くことで自殺させてしまうんじゃないか?」という質問をよくされますが, むしろ反対で, 徹底的に聞くことで, 本人は安心して休養できるようになり, 自殺のリスクは低下します. 

 

これは何も専門家じゃなければできないことではないので, 身近な人から「死にたい」と言われたときは, 徹底的に思いを聴いてあげましょう. 

 

TALKの原則」という関り方があるので, また別の機会に紹介します. 

 

ただし, 「死にたい」という気持ちは, 聞く方もかなりのエネルギーを使います. たとえ本人から「あなただけに言ったから他の人には言わないでね.」と言われても, その約束だけは守らないようにしましょう. 

 

回復期の看護

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図3. うつ病の看護(回復期)

回復期では, 少しずつ患者さんの消耗したエネルギーが回復してきます. その時々で, 患者さんの状態に合わせて, 日中にできる活動を増やしていけるといいでしょう. 

 

この時に一気に活動量を増やしたり, 焦ったりすると, せっかく回復したエネルギーを一気に消耗してしまい, ぶり返してしまいますので, あせらずゆっくりできるよう看護師がペースメーカーのように関わっていくことも大事かもしれません. 

 

薬物療法への支援や自殺の予防は引き続き行います. 特に, 自殺に関しては「どん底に落ち込んでいるときよりも少し元気になってきたときの方が危ない」とも言われているので, 油断せずに関わっていきましょう. 

 

回復期に追加した以下の点について, 順番に説明します. 

 

自己肯定感を高められるような支援

自己肯定感とは, 「自分の存在には価値がある」、「ありのままの自分を肯定する」ことです. 他人と比較することなく, 自分自身を認め, 尊重することなのですが, うつ病の人は, この自己肯定感が低下しています. 

 

「周りにはもっと苦しんでいる人がいるのに自分は...」

「こんな病気になるなんて情けない... 」

 

こういった気持になってしまうことを否定する必要はありませんが, 少しずつで良いので, 前を向くことが出来るようにサポートしていきます.

 

退職, 離婚などの重大な決定事項は避ける

家族や会社に迷惑をかけてしまったという思いから, こういった人生において重要なことを焦って決めようとしてしまいます. 

 

ただ, 回復期はまだまだ完全にうつ病が治った状態とは言えないので, しっかりと回復して, 家庭や職場に戻ってみて, そこから続けられるかを家族や職場と話し合うことが大切です. 

 

入院中に焦って決めることは絶対にやめましょう. 

 

家族への支援

うつ病に限らず, 精神疾患全般に言えることですが, 入院中から退院後のご本人の状況をイメージしながら看護を行う事が大切です. 

 

では, 退院後のご本人を支えてくれるのは誰でしょうか?

言うまでもなく家族ですよね. 

 

ただし, 家族が精神医療について十分に理解しているかはわかりませんし, たとえ精神医療に精通していたとしても, 家族のこととなると別問題です. 

 

つまり, 入院中から家族と連携を図り, 患者さんをスムーズに受け入れてもらえるような準備をしておくことが大切です. 

 

うつ病は, 本人だけでなく, 家族にも不安や焦りを与えます. 家族の不安にも耳を傾け, メンタルケアが必要な場合はそれも行い, 同時にご本人の現在の状況を伝えることで, 家族に安心感も与えられるようにしていくことが大切ですね. 

 

反対に, 患者さんの家族の立場にある方は, 患者さんが入院している間や退院した後も, 遠慮なく医師や看護師さんを頼ってください. そうすることで, 治療がきちんと継続されたり, 再発の予防や, 再発した時の対処などがスムーズにできるようになるはずです. 

 

おわりに

今回は, うつ病について病因・症状・治療・看護の解説をしました. ここですべてを説明できたわけではないので, より詳しいことが知りたい人は, 厚労省のサイトを見たり, 参考文献に示している本を読んでみることをお勧めします. 

 

覚えていてほしいことをまとめます.

  • うつ病は適切な治療やケアで改善すること
  • そのために病院では看護師が急性期や回復期で患者さんに合わせたケアを行っていること
  • だから受診や入院をためらわないでほしいこと

以上です. 

 

今後も精神看護に関するさまざまな情報を発信をしていきますので, 是非読んでいただきたいと思います.

 

それでは, また次回の投稿でお会いしましょう! 

 

参考文献

1. 新体系看護学全書 精神看護学2 精神障害を持つ人の看護. メヂカルフレンド社

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2. 全人的視点にもとづく精神看護過程. 医歯薬出版株式会社

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3. 看護実践のための根拠が分かる精神看護技術. メヂカルフレンド社

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