
この領域に携わる者として、どうしても切り離すことのできないテーマがあります。
それが自殺対策です。
とても重いテーマではありますが、対応について知る人が一人でも増えることで、少しでも自殺対策につながればと考え、今回この文章を書いています。
- 日本の自殺の現状
- 「自殺は本人の意思」という誤解
- 自殺リスクが高いときの心理状態
- 両価性という揺れ
- 専門家はどのように対応するのか
- 専門家でない人ができること ― TALKの原則
- 「聞くと悪化するのでは?」という不安について
- K:Keep safe(安全の確保)
- 絶対に守ってほしい大切なこと
- おわりに
日本の自殺の現状
みなさんは、日本で年間何人の人が自ら命を断っているかをご存じでしょうか。
約 20,000人 です。
世界全体で見ると、年間の自殺者数が1万人を超える国は11か国しかありません。
自殺率で考えると、日本は先進国の中でもトップクラスに位置しています。
一見すると平和に見える日本ですが、実は「困っている人が助けを求めることが難しい国」とも言えるのかもしれません。
もしも、あなたの身の回りに「死にたい」と考えている人がいたら――
今回は、そんなもしものときの一助になればという思いでまとめました。
「自殺は本人の意思」という誤解
自殺について語られる際、次のような意見を耳にすることがあります。
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自殺は本人の意思によるもの
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自分の命なのだから自己判断でいい
しかし、これは大きな誤解であることが、すでに多くの研究で明らかになっています。
自殺は、正常な判断能力が保たれた状態で行われる行為ではありません。
自殺リスクが高いときの心理状態
自殺のリスクが高まっている人は、次のような心理状態に陥っていることが多いとされています。
想像するだけでも、とてもつらい状態であることが分かります。
両価性という揺れ
両価性は、振り子のようなモデルで説明されることがあります。
自殺リスクの高い人は、「死にたい気持ち」と「生きたい気持ち」の間で揺れ続けています。そして、その振り子が一時的に「死にたい」側へ大きく振り切れてしまったとき、行動に移ってしまうのです。
死にたくなるほどのつらさがある。けれど、その理由さえなければ、本当は「生きていてもいい」はずなのです。
専門家はどのように対応するのか
専門職の場合、以下の点を丁寧にアセスメントしながら対応します。
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どれくらい自殺リスクが高い状態なのか
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現在の心理状態はどうなっているのか
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保護因子(自殺を防ぐ可能性のある要素)は何か
保護因子とは、家族や友人とのつながり、支えとなる存在、治療へのアクセスなど、「生きる方向へ引き戻してくれる要素」のことを指します。
専門家でない人ができること ― TALKの原則
では、専門職でない私たちは、何もできないのでしょうか。
そんなことはありません。
一般の人が意識してほしい考え方として、TALKの原則があります。
- T:心配していることを伝える
- A:死にたい気持ちがあるかを尋ねる
- L:しっかり話を聞く
- K:安全を確保する
「聞くと悪化するのでは?」という不安について
「死にたい気持ちについて深く聞くと、かえってその気持ちを強めてしまうのではないか」そう感じる人も少なくありません。
しかし、研究ではそのような心配は不要だとされています。
むしろ、話を途中で遮ったり、話題をそらしたりすることの方が良くないとされています。
ただし、聞く側にとっても非常につらい内容です。
本人と話したあとには、自分自身も誰かに相談することを忘れないでください。
K:Keep safe(安全の確保)
安全を確保するためにできることとしては、例えば次のような対応があります。
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自殺に使われそうな道具(紐、刃物など)を遠ざける
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精神科・心療内科の受診につなげる
また、本人と「自殺をしない約束」をすることも重要です。
「死にたくなったら、必ず私に言ってほしい」
「また話を聞くから、来週の土曜日にご飯に行こう」
そのような約束が、行動を思いとどまらせる力になることがあります。
絶対に守ってほしい大切なこと
死にたい気持ちを打ち明けられたとき、本人から次のように言われることがあります。
「あなたにだけ言った」
「他の人には言わないでほしい」
このお願いには、絶対に応じないでください。
自殺対策は非常に難しく、一人で抱え込めるものではありません。
もしものことが起きたとき、必ず深い後悔が残ります。
必ず、周囲の信頼できる人や、いのちの電話などの相談窓口、専門機関につなげてください。
おわりに
自殺対策について、ここに書いたことがすべてではありません。
まだまだ伝えきれていないことも多くあります。
それでも、この文章が、誰かの「もしものとき」に、ほんの少しでも役に立つことを心から願っています。
