
今回は「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」について解説していきます。
PTSDは「post traumatic stress disorder」の略で、日本語では「心的外傷後ストレス障害」と訳されます。
非常に強いストレス体験をきっかけとして、その出来事が過ぎ去ったあとも、心や体が強い緊張状態から抜け出せなくなってしまう精神疾患です。
私たちは日常生活のなかで、多少のストレスを感じることは誰にでもあります。しかしPTSDで問題となるのは、「命の危険を感じるほどの体験」や、「心が耐えきれないほどの強い衝撃」を受ける出来事です。
PTSDの原因となる強いストレス体験
PTSDの原因となる体験には、次のようなものがあります。
これらは、多くの人にとって「非常に強い恐怖」や「無力感」を伴う体験です。
重要なのは、「その人にとって耐え難い体験であったかどうか」であり、出来事の大きさそのものではありません。同じ出来事を経験しても、PTSDを発症する人もいれば、発症しない人もいます。
PTSDの診断と発症のきっかけ
PTSDの診断基準は、DSM-5やICD-11といった診断分類に定められています。
診断の前提として、次のような体験があることが条件とされています。
- 強いストレスとなる出来事を直接体験した
- 他人がその出来事に遭うのを目撃した
- 家族や親しい友人が被害に遭ったと知った
- その出来事の詳細に、仕事などで繰り返し触れた
このような体験のあと、症状が出現し、日常生活に支障をきたしている場合にPTSDが疑われます。
発症時期としては、体験から1か月以内に症状が現れることが多いですが、数か月、あるいは半年以上経ってから症状が出てくることもあります。
なお、体験から3日後~1か月以内に出現するものは「急性ストレス障害(ASD)」と呼ばれ、PTSDとは区別されます。
PTSDの主な症状
PTSDの症状は多岐にわたりますが、代表的なものとして次のような症状があります。
侵入症状
トラウマ体験が、突然頭の中によみがえる症状です。
思い出したくないのに、映像や音、感覚が現実のように蘇り、強い恐怖や苦痛を感じます。悪夢として現れることも少なくありません。
回避症状
トラウマを思い出させる場所や人、話題を避けるようになります。
外出できなくなったり、人との関わりを避けるようになることもあります。
陰性感情・認知の変化
「自分が悪い」「世界は危険だ」という否定的な考えが強くなったり、喜びや楽しさを感じにくくなることがあります。
過覚醒症状
常に緊張状態にあり、些細な音や刺激に強く驚いたり、眠れなくなったり、イライラしやすくなります。
これらの症状が続くことで、仕事や学業、人間関係など、日常生活に大きな影響が出てしまいます。
PTSDの治療について
PTSDの治療は、精神療法を中心に行われます。
薬物療法も用いられることはありますが、不安や抑うつ、不眠などの症状を和らげる目的で使用されることが多く、薬だけでPTSDそのものが治るわけではありません。
精神療法の中で代表的なものに「エクスポージャー療法」があります。
これは、専門家の支援のもとで、トラウマ体験を少しずつ振り返りながら、「その出来事は過去のものであり、今の自分は安全である」ということを、頭だけでなく体感として理解していく治療です。
ただし、トラウマを想起すること自体が大きな負担になるため、慎重に進める必要があります。
近年では、ヨガやマインドフルネスなどを取り入れ、「今ここにあること」に意識を向けることで心身の安定を図る治療も注目されています。
PTSDの人への看護のポイント
PTSDの人への看護で最も重要なのは、「安心できる環境」と「信頼関係」を築くことです。
突然の物音や不用意な言葉が、症状を悪化させることもあります。そのため、安全で落ち着いた環境を整え、本人が「ここでは大丈夫だ」と感じられることが大切です。
また、体験や思いを無理に聞き出す必要はありません。
本人のペースを尊重しながら、話したいときに話せる関係性をつくること、つらさに寄り添い続ける姿勢が求められます。
こうした関わりを通して大切になるのが「レジリエンス」です。
レジリエンスとは、困難な状況にあっても、心身の健康を保ち、回復しようとする力のことを指します。
PTSDを抱える人は決して弱いわけではありません。むしろ、過酷な体験を生き抜いてきた人だからこそ、その人なりの回復する力を持っています。看護は、その力が発揮されるよう支えていく役割を担っています。
おわりに
PTSDは、決して特別な人だけがなる病気ではありません。誰にでも起こりうる出来事の延長線上にあり、適切な支援によって回復が可能な疾患です。
今回紹介した「レジリエンス」という考え方は、精神疾患をもつ人の回復を考えるうえで、とても重要なキーワードです。
また別の機会に、もう少し詳しく解説したいと思います。
- 精神科に興味のある方
- 精神科看護師になりたての方
- 看護学生の方
にとって、参考になれば嬉しいです。
