
認知症は、大きく四つのタイプに分類されていますが、なかでも アルツハイマー型認知症 は、最も耳にする機会の多い認知症ではないでしょうか。
この疾患は、映画 私の頭の中の消しゴム でも題材として取り上げられ、多くの人に認知症という病気を身近に感じさせた存在でもあります。
認知症は、疾患ごとに症状の現れ方や進行の仕方、病因に違いがありますが、共通している点があります。それは、「一度正常に発達した認知機能が、後天的に低下していく」という点です。
ここでいう認知機能とは、記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断など、人が日常生活を送るうえで欠かせない機能を指します。
- 中核症状とBPSD
- 治療の目的と認知症の経過
- 認知症の方への看護の基本
- 「できること」は意外と残っている
- 家族への支援も看護の一部
- コミュニケーションの力
- ユマニチュードという考え方
- 最後に:家族だけで抱え込まないために
中核症状とBPSD
認知症の症状は、大きく二つに分けて考えられます。
一つは、記憶障害や見当識障害(時間や場所が分からなくなる)、思考・判断力の低下といった中核症状です。
もう一つが、幻覚や妄想、不安、抑うつ、暴言・暴力、徘徊などの周辺症状(BPSD:行動・心理症状)です。
特にBPSDは、介護を担う家族にとって大きな負担となりやすい症状です。
昼夜逆転や突然の怒り、繰り返される訴えや拒否的な態度などは、身体的にも精神的にも家族を疲弊させてしまいます。
治療の目的と認知症の経過
認知症の治療には薬物療法がありますが、その目的は「治すこと」ではありません。
進行を緩やかにし、生活の質を保つことが主な目的です。
現在の医療では、低下した認知機能を元の状態に戻すことは難しく、認知症発症後の平均生存期間は約10年程度とされています。
そのため、認知症のケアにおいて重要になるのが、「どのように生活を支え、どのような関わりを行うか」という看護や介護の視点です。
認知症の方への看護の基本
認知症の方への看護では、次のような関わりが大切にされています。
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疾患によって困難になったセルフケアを補う
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できるだけ慣れた環境で生活できるよう調整する
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対人関係や活動の機会を維持・援助する
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安心感を与えるコミュニケーションを行う
セルフケアは、食事、排泄、清潔、移動など、日常生活の基盤となる行動です。
本人ができなくなった部分については支援が必要ですが、すべてを代行してしまうことが必ずしも良いとは限りません。
本人にまだできることが残っている場合は、その力を活かしながら支援することが大切です。
残存機能を奪わないことは、尊厳を守るうえでも重要な視点です。
「できること」は意外と残っている
認知症では、記憶や見当識は低下しやすい一方で、長年の生活の中で身につけてきた行動や習慣、いわゆる「結晶性知能」は比較的保たれるとされています。
そのため、できるだけこれまで過ごしてきた環境や生活リズムに近い形で支援することが望ましいとされています。
慣れ親しんだ環境は安心感につながり、不安や混乱を軽減する効果が期待できます。
対人関係や活動についても、すべてを制限するのではなく、本人の状態に合わせて調整することで、適度な刺激となり、結果的に認知症の進行を緩やかにすることがあります。
家族への支援も看護の一部
認知症のケアでは、本人だけでなく家族への支援も欠かせません。
これまでの苦労をねぎらい、不安や悩みを言葉にできる場をつくることは、家族が安心して関われる土台になります。
穏やかな人間関係の中に身を置くことで、本人の表情や行動も自然と穏やかになっていくことが少なくありません。
コミュニケーションの力
忙しさを理由に、入浴や食事介助、清拭などを「作業」としてこなしてしまうことはないでしょうか。
認知症の方は、記憶や判断力は低下しても、「快・不快」の感覚は最後まで残ると言われています。
つまり、「この人がそばにいると安心する」「この人が来ると不安になる」といった感覚は、しっかりと感じ取っているのです。
そして、認知症を進行させる大きな要因の一つが「不安」です。
だからこそ、安心感を与える関わりやコミュニケーションは、非常に重要な意味を持ちます。
ユマニチュードという考え方
詳しい説明は割愛しますが、認知症ケアの技法として ユマニチュード があります。
すべてを完璧に実践することは難しくても、日常の中で取り入れやすい要素はあります。
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入室時には必ずノックし、相手が気づいてから入る
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目線を合わせて話す
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誘導する際は、手をつかむのではなく下から添える
こうした小さな配慮が、相手の安心感につながります。
最後に:家族だけで抱え込まないために
自宅で認知症の方を介護している家族、そして入院や施設利用に罪悪感を抱いている方へお伝えしたいことがあります。
十分な支援がない中で、家族だけで認知症の介護を続けることは、本当に大変なことです。
私は仕事を通じて認知症の家族会に参加する機会が多く、たくさんの苦労や葛藤を耳にしてきました。
変わってしまった大切な人と向き合い、いつまで続くか分からない状況に不安やつらさを感じるのは、決して特別なことではありません。
どうか、家族だけで抱え込まず、病院や地域包括支援センター、自治体の相談窓口に連絡してみてください。
周囲の力を借りながら、大切な人と穏やかに過ごす方法を一緒に考えていくことができます。
今回は「認知症」について解説しました。
この文章が、少しでも誰かの支えや気づきにつながれば幸いです。
